名古屋高等裁判所 昭和24年(う)1814号 判決 1950年12月19日
被告人
加藤幸太郎
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人太田米吉の控訴趣意一について、
原判決摘示の第一事実につきその挙示の証拠を検討するに被告人の労働基準監督官に対する第二回供述調書によれば同人の「前略、先月貴殿方が来られて年少な者は残業させてはいけないという注意を受けましたので残業をしないように年少者に伝えましたが実際はその後も従前同様残業をやつておりましたような訳で結果的には黙認していたということになります。仕事に波があつてやりかけの仕事を時間が来たからといつて放つておくという訳にも行かずくぎりがつくまで仕事をさせました。住込の者が多いという関係もあつて時間が延びてもそのまゝ引続いて仕事をするという習慣になつていて私としてはまあ黙認していたということになります。昔からの慣例で亦住込みでもあり日給月給でもある関係上時間的の観念は薄く逆に休んでも給料は出しておるから残業に対しては記録もつけずにいましたが先月お叱りを受けてから直ちに改めようと思いつゝ税金その他の取込みで延び延びになつていた」との旨の供述記載がある。よつて按ずるに本件時間外労働をさせるについての被告人の犯意は各日毎に生じたものではなく、沢田貞夫、玉城俊男を雇入れ工場において労務に服させる際(昭和二十三年五月頃)既に相当期間に亘つて残業をさせ以て時間外労働をさせる意図を有していたものと推定されるのであるからその犯意は一個に出でるものというべく、従つて被告人の本件所為は右両名に対する各一罪を構成するものと解すべきである。而して被告人が右両名をして原判示の如く時間外労働をさせたことはその挙示の証拠によつて十分にこれを認定することができる、所論は右の証拠を以てしては昭和二十四年五月十三日以前の期間中引続き連日時間外労働をさせたか或はその間法定時間内の場合もあつたか不明あるとなし以て原判決は一部の事実を証拠によらずして認定した違法があると非難する。惟うに右の期間中、工場の休日或は偶々時間外労働をさせなかつた日が存在したかもしれないことはこれを推察し得られない訳ではないが、(原判示には「引続き連日」の字句は使われていない)前説明の如く本件を各一罪と認定すべきものである以上、このような事実は所詮原判示の事実認定の妨げとなるものではなく従つて各日毎に時間外労働の事実の判示を要するものではないと解される、されば原判決には所論の訴訟手続に関する法令の違反あるものではなく、論旨は理由がない。
(弁護人太田米吉の控訴趣意)
右ノ者ニ係ル労働基準法違反事件ニ付、控訴趣意左ノ通リ開陳スル
一、原判決ハ訴訟手続ニ法令ノ違反ガアリ、且ソレハ判決ニ影響ヲ及ボスコトガ明ラカデアルカラ破棄セラルベキデアル、即原判決ハソノ理由ニ於テ
「(事実)
第一、工場住込ノ年少労働者沢田貞夫、玉城俊男両名ニ対シ昭和二十三年五月頃ヨリ翌二十四年五月十七日頃マデニ至ル間、午前六時五十分頃乃至午前七時三十分頃ヨリ、午後五時三十分頃乃至午後七時三十分頃マデ法定一日ノ労働時間八時間ヲ超エ最短約一時間、最長約三時間四十分ノ時間外労働ヲサセ」
ト判示シ、昭和二十三年五月頃ヨリ翌二十四年五月十七日頃迄引続キ、連日時間外労働ヲサセタ事実ヲ認メ(原判決ハ判示期間連日違反行為ガアツタモノト認メタモノカ、又ソノ間法定時間内ノ場合モアツタト謂フノカ必ズシモ明確デナイガソノ文詞自体ハ期間内連日、一時間乃至三時間四十分の違反行為ガアツタト認メタモノト解スルノ外ハナイ)ソノ証拠トシテ七ツノ証拠ヲ採ツテイルガ、ソレ等ノ証拠ニヨレバ、昭和二十四年五月十三日カラ同月十七日マデ時間外労働ヲサセタコトハ認メラレルが、判示ノヨウニ、二十三年五月頃カラ引続キ時間外労働サセタコトハ認メラレナイ(尤モ昭和二十四年五月十三日以前ニモ時間外労働ノアツタコト認メラレルガ、ソノ日時、回数労働時間等ガハツキリシテイナイ)結局原判決ハ一部ノ事実ヲ証拠ニ拠ラズシテ認定シタモノデ違法デアリ且右ノ期間引続キ連日時間外労働ヲサセタカ、或イハソノ間法定時間内ノ場合モアツタカハ、罪ノ軽重ヲ決定スルモノデ、当然判決ニ影響ヲ及ボスモノデアルカラ原判決ハ違法デアリ破棄ヲ免レヌ